有川浩『ストーリー・セラー』感想

 最近有川浩さんの作品ばかり読んでいます。今日もまた読んでしまいました!『ストーリー・セラー』。

 今回はこちらの感想を書いていきます!

 

 『ストーリー・セラー』は、前半のside Aと後半のside Bに分かれています。

 side Aは、思考することで命が短くなってしまう病気にかかった作家と、その夫の生き様を描いた話。

 side Bは、事故にあった上、すい臓がんらしきものになってしまっていた夫と、作家である妻の生き様を描いた話。

 

この物語、構成が複雑です。side Bを読み終えてからは脳がグルグル。今もグルグルしてます。

 このグルグルを共有したい!!

 

 まずはside Aの感想を述べていきます!

 

side A 

side Aは、切なさを感じながらも純粋に感動できました。

 彼が彼女の小説を、無理矢理読んでしまった時の、彼女からの

「小説は書いた人の一番もろくてやわい部分が書かれてる。」

という言葉が印象的でした。

 書き手の脳の中で色々考えて紡いだ言葉。確かに、推敲してこれなら見せても大丈夫と自信を持てるように仕上げないと、見られるのは恥ずかしいでしょう。

 

 また、本を読むことは好きだけど書くことは出来ない彼に共感できました。

 私も読書が好きで、小さい頃に自分でも書こうとしていました。

 なんとか書き上げても、読み返してみると中身が無く、全然面白くありません。語彙力も表現力も全く無く、書きたいけれど書けませんでした。

 「書く側」の人間に「読む側」の人間の思いを伝えてくれていて嬉しかったです。

 

 彼女は、思考することを辞めなかった。寿命が縮むことよりも、思考し物語を書き続けることを選んだ。彼女の本を一番好きだと言ってくれる彼のために、彼女は命をかけて物語を紡いだ。

 

なんて美しく物悲しいラブストーリー!

 

きっと言わなくても伝わっていたけど、もっと口に出しておけばよかったこと。もう伝えられなくなるなんて考えたくもなくて胸に押し込めていた言葉たち。どうして何度でも伝えておかなかった。僕は何て弱かったのか。改まって伝えたら、伝えられなくなる日が来ることに向き合わなくてはならないから、それが恐ろしくて目を逸らした。

 

  彼が恐くて向き合えなかった気持ちがものすごくわかりました。でも、照れ臭くて普段言えないこととかも、大切な人にちゃんと言わなきゃとも思いました。

 

side B

 side Aば夫からの視点だったから、Bは妻からの視点なのかな〜なんて思いながら、ページをめくると、、

 

「前は女性作家が死ぬ話だったろ?今度は女性作家の夫が死ぬ話にしてみたら?」

 んんん?どういうこと??

side Aの話は、女性作家の書いた作中作?

 

 side Bの人物は、 Aと同じで、女性作家と、彼女の作品が一番好きな彼が出てくる。

 二人の馴れ初め、結婚後の生活。

 改めて、自分の小説を一番好きだと言ってくれる人と結婚すること、そして、自分の一番好きな小説を書いてくれる人と結婚することは幸せなことだなと思いました。

 作家として、自分の作品をこんなに褒めてくれる人がいるなんて、嬉しいですよね。

 

 読んでくれて、素敵だと言ってくれる人がいる。それはどの作家にとっても嬉しいこと、飛ぶ力を与えてくれる源になってるのだと思います。

 

 そんな幸せな結婚生活から事態が一変。

 

彼が交通事故に遭い、病院に運ばれます。そして、検査の結果、すい臓がんらしきものにかかってあると発覚します。

 

 小説家である彼女は、彼の不幸を逆夢にしようと、覆れという文字を一晩打ち続けます。

 

 ここで、作家は夢商いだという表現が出てくるのですが、この表現好きです。(突然)

 

 ここまで来てから、次のページをめくると、、

 

 彼女の書いた物語を彼が読んでいるところでした。つまり、今までのside Bの話は、作中作ということですよね?彼は事故に遭ったのは本当のようですが、まだ病気で死ぬという流れにはなっていない状態です。

 

彼に、彼女は言います。

「元気に死に損なおうね」

すっごいワードフレーズ!!!

 

そして物語は進みます。

彼は仕事を辞め、彼女の会社を立ち上げます。昔の友人を家に呼び、猫を飼うことを決めます。

 病気の彼が猫を飼う、、有川浩さんの旅猫レポートに似ている展開です。

 

猫を飼うことを決めたのは、

「何かあっても後は追うなよ」

という彼女への気持ちがあったからでした。

 

 彼は病院で入退院を繰り返すようになります。病状が進んでしまった彼に、彼女は言いたいことがあっても我慢して優しく接するようにします。

 すると彼は怒り出したのです。

「頼むからわがまま言えよ!」

 わがままを言わないから怒る人なんて、、

「君を甘やかすのが人生の目標。」

なんて言う彼氏いますか? 

 この彼氏できすぎている、、

 

そして彼は言います。

「もし俺が死んだら、書いてくれよ。俺が死んだことを君がどう書くか知りたい。」

 

 家に帰った時、彼の生死はわかりませんが、彼の姿はありません。彼は死んでしまったのかな、、と思いながら次のページをめくると、、

 

 彼女が担当の編集者に、自分の原稿を送ったところでした。

 

 ここから私の頭の中はグルグル回転し続けます。

 

ストーリー・セラーの対になる話というのは、

女性作家が死ぬ話の対としてかかれたものということですよね。

つまり、今までの話もまた作中作ということでしょうか?

 

担当は困惑して、彼女に聞きます。

「このお話はーーどこまで本当なんですか?」

「どこまでだと思います?」

それは誰にも言わない。

あたしは、この物語を売って逆夢を起こしに行くのだから。

 

ああああ!なんだかグルグルに加えてぞくぞくする!

 

女性作家が死ぬ話の対として面白いかもと、女性作家の夫が死ぬ話を書こうとしたら、本当に夫が病気になってしまった。

ということは確かです。

 

 本当に夫が死んでしまったと思って読んでいましたが、

最後に、逆夢を起こしに行くというセリフがあることで、

夫は病気だが、まだ生きていて、小説を売って逆夢を起こすのだという解釈もできますよね。

担当の方に聞かれて、「はい。」と答えているところだけが本当だったらいいのに。そのほかの小説の内容は、実際には起こっていなくてフィクションだったらいいのに。

そう願ってしまいます。

 

ですが、、

 

 夫が妻に、作中作で、自分が死んだことを物語にしてほしいと言っているので、もし本当に言っていたとしたら、

この話は、夫が病気で死んでしまったので、夫の望みの通りに夫を物語にしたものと考えられます。

 夫が亡くなっているのに、逆夢を起こしに行くというのは、切なくてやりきれないですが。

 

 すると、この作品の装丁に納得がいきます。

 リボンで大切なプレゼントのように包装されている装丁。

 これは、女性作家から亡くなった夫のためのプレゼントの本なのですね。

 

 物語の最後の方で、彼女は

あなたに読まれたい。もっと読んで。あたしの物語を好きだと言って。あなたはあたしの絶対の拠り所だった。

と思っています。

 

 自分の物語を心から好きだと言って読んでくれる夫は、彼女にとって本当に最強の夫だったでしょう。

そんな愛する夫のために、この物語を書いた。

 

 なかなか解釈が難しくて頭がゴタゴタになってしまいます。

どこまでがフィクションで、どこからがノンフィクションなのか。

 

そして、この女性作家は、有川浩自身なのではないか。という疑問もあります。

 

 ストーリー・セラーというのは、物語を売るもの=作家。これには、女性作家と、有川浩の二人をかけて付けた物なのか、、?

 

 有川浩さんの作品は、いつも分かりやすくたら面白かったですが、今回は曖昧で難しかったです。

 その曖昧さがいいのかもしれませんが、私は気になってモヤモヤした気持ちになってしまいます、、

 けれど、夫婦の愛には感動したし、凝った構成を書ける有川さんは流石だなと思いました!